南インド映画祭にいってきました。
毎年、秋も深まるころに開催し、2016年でついに5年目を実現したIFFJ(Indian Film Festival Japan)が、今回は南インド作品に絞って開催しています。インド映画の興行がかくも厳しい日本においてこの開催を実現されたこと、関係者のみなさまの並々ならぬ熱意とご尽力に敬意を評します。
開催は東京は5/11(木)まで、大阪は5/12(金)まで。詳細は公式サイトでご確認ください。 南インド映画祭公式サイトはこちら
テルグ語映画の特徴
さて私アンジャリ、恥ずかしながら南インド映画のなかでもテルグ語映画はもっとも未知のジャンルです。
近年だと「あなたがいてこそ」(2010)、「マッキー」(2012)、「バードシャー テルグの皇帝」(2013)、そして満を辞して先月公開された「バーフバリ 伝説誕生」(2015)と、ちょっとさかのぼると「愛と憎しみのデカン高原」(1997)など(以上、公開年はインドのもの)、日本で公開された作品はほとんど鑑賞してはいるのですが、テルグ語映画界のメガスターであるチランジーヴィの作品は未見ですし、エラソーに感想を述べるにはいささか心もとないところです。
そんな乏しいテルグ語映画体験のなかから、独断ではありますがテルグ語映画の特徴を述べさせていただきますと。
血みどろ & ヒロインがケバい & すべてにおいてやりすぎ
といったところです。
「バーフバリ 伝説誕生」をご覧になった方はお分かりかと思います。
「普通このへんで落としどころをみつけるだろう」という観る者の予想をはるかに上まわるやりすぎっぷり。それを発揮するのがテルグ語映画ではないかと思います。
血みどろはまあボリウッド映画でもタミル語のコリウッド映画でもあるのですが、なんとなくですが、テルグ語の血みどろはバイオレンス度が高めな気がします。そしてヒロインのメイクが「ナチュラルメイクってなに?」と思わず問いたくなるような盛りっぷり。
また、ボリウッドを始めとして、近年のインド映画界では、「女性の地位の向上」や「女性の成長物語」をモチーフとする作品が多く作られるなか、テルグ語映画のヒロインはまだまだお飾り的な役割を担っている印象もあります。
ストーリー
ギャングに見初められた恋人ディープティと街を抜け出そうとするサティヤ。しかしその道中、待ち伏せしていたギャングの一団がふたりを乗せたバスを罠にはめ、ディープティは殺されてしまう。サティヤも死んだかに見えたが、彼にはまだ息があった。
瀕死の状態で病院へ搬送されたサティヤ。顔面が焼けただれ身元がわからないながらも、彼の生きようとする強い意志をくみとったシャイラージャ医師は、自分が全責任を負うとして、サティヤを助ける。
10ヶ月間昏睡ののちに目覚めると、まったく別人の顔になっていたサティヤ。新しい顔を手にいれた彼は病院を抜け出し、恋人を殺した者たちへの復讐を遂げるべく計画を立てるのだった。
みどころ
まあ、まずはこれ観てくださいよ。
普通にやったら確実に膝を痛めそうな振り付け。このダンスのためだけでもこの作品を鑑賞する充分すぎる理由になります。ダンスがうまい俳優にまみれているインド映画界でも超ド級にうまい主演の彼の名は、ラーム・チャラン(Ram Charan)。
なんたって彼は!
ちょっと前に、マイケル・ジャクソンの「スリラー」のPVに似ていると、髭もじゃのインド人のおじさんが「ゴリマー」なんて呼ばれてニコニコ動画で流行った動画がありましたでしょう。
あの俳優チランジーヴィの息子です! そりゃ踊るでしょう!
インド映画界には映画一族が君臨しているものですが、まさに彼も、メガスターの愛称をもつテルグ映画界の大俳優を父にもち、これ以上なく恵まれた環境で心おきなく才能を開花させた逸材といえます。
憂いを含んだきれいな瞳のラーム・チャラン
なぜ、このハンサムボーイが
テルグ語映画界の “メガスター” チランジーヴィ
このお父ちゃんの息子なのかはともかく。
むっつりスマイルのチャラン王子
ラーム・チャランの魅力はダンスだけではありません。ときおり見せる憂いを含んだ瞳や、なにより、「むっつりスマイル」とでも呼びたいような、ちょっとはにかんだ微笑みが日本女子のハートもわしづかみにするに違いありません。
これね「むっつりスマイル」
よく登場するこのスマイル
ヒロイン三人娘。殺される恋人、顔が変わってから出会う美女、その後も登場するさらなる美女、とヒロインも取っ替え引っ替え、よう出てきます。
サティヤと逃げるヒロイン・ディープティ役はカージャル・アガルワール。かわいらしく可憐な安定のヒロインぶり。
「バードシャー テルグの皇帝」でもヒロインを務めたカージャル・アガルワール(Kamal Aggarwal)。今回一番ナチュラル美人でした
次に登場するのは英国人女優のエイミー・ジャクソン。公開当時にちょうど売り出し強化中だったのか、じつに「付け足し」的な役どころ。
なんちゅうか踊りもいまいちだし、かわいいだけで売るには歳もいっているし、インド映画の外国人ヒロイン枠はそれほど広くはないし、どれだけインド人観客に訴えるか未知です。
現在もがんばっているようなので今後どう転ぶか一応見ておきたい女優さんです(なぞの上から目線)。役名はシュルティ。シュルティって顔じゃないよなあ。ぶつぶつ。
エイミー・ジャクソン(Amy Jackson)。イギリス生まれ、インド系ではないのにインド映画でデビューした女優。確かにインド臭まったくありません
最後に出てきておいしいところをかっさらっていくのはシュルティ・ハーサン。ええとこのお嬢さんというのはわかるのです。でもちょっとケバいです今回。マンジュナートという男名で携帯に登録されたりもしますが、役名はマンジュ。
シュルティ・ハーサン(Shruti Haasan)。タミル語映画でラジニカーントと並ぶ大俳優カマル・ハーサン(Kamal Haasan)の娘。パパそっくりの目元
なんせ2時間45分の長丁場で、インド映画慣れしている私ですら「長いわあ」と思います。日本人的にはいらないと思われるシーンもたくさんあります。でもこの作品は、ラーム・チャランを愛でるPVであり、彼がいかにイケてるかをゴージャスな女優陣で固めてとくとくと見せるための作品なのだな……と思っていましたよ。
ええ、途中までは。
中盤あなたは必ず「ええ〜!」と驚愕する
10ヶ月も昏睡していたわりには目が覚めてすぐフルに戦ってめっぽう強かったり、やけに順調に復讐が進んでいったりと。正直なところ、前半はけっこうダレダレといいますか。
関係ないですけど無理やりねじ込みますと(笑)、日本の映倫は審査料が1分あたり2,740円かかります。私たちの配給作品「チャーリー -Charlie-」は2時間ちょっとの作品ですが、「このシーンいらないのに……」などと思ってしまうシーンにも当然ながら審査料がかかります。
日本人にはよく分からないご当地ネタやご当地パロディに何分も使われると、文句をいえる筋合いじゃないのは百も承知ですが配給側としてはとても複雑な思いがいたします(笑)
そんなシーンがこの作品もわりとありまして。美女との戯れが延々と続くようなミュージカルシーンではちょっと眠たくなったりもしました。
が! が! が!
中盤、「ええ〜!」という展開があり、ストーリーが一気に動きます。ハリウッド映画だったら3本分くらいを1本にぶち込んだ感じです。後半はまた違ったテイストで進行し、ラーム・チャランの魅力もさることながら、ストーリーのおもしろさにひっぱられていきますよ。こういうのがあるからやめられないんですよインド映画。
むちゃくちゃや! そんなんあるわけない!
そんな荒唐無稽さもすべて勢いで吹き飛ばしてしまいます。映画館にきたからには、とにかくお腹いっぱいめいっぱい楽しんで帰ってもらおう! という気概を感じます。なんでもかんでも時短、効率、リアリティ優先、そんなせせこましい考えは微塵も感じられません。
そういう意味で、本作はインド娯楽映画の王道をいく作品といえるでしょう。ちょっと疲れるけど(本音)。
魅力的な脇役のみなさん
本作は俳優陣もとてもよいです。ヒロインのキャスティングはあれこれとすったもんだがあったようですが。
カメオ出演しているこの方は、ラーム・チャランのイトコでもあるアッル・アルジュン(Allu Arjun)。
顔が変わる前の主人公サティヤ役。系統は違えど彼も憂いを含んだ瞳で女子のハートをぐっと惹きつける
なにやらシリアス顔で登場するアポロ病院の医師(院長?)。主人公サティヤの命を救い、別の顔を与えた張本人です。
ジャヤスーダ(Jayasudha)。主人公を助けるシャイラージャ医師
サティヤが担ぎ込まれるアポロ病院の引きの画が何度か出ます。アポロ病院はチェンナイを中心に展開する有名な病院グループで、ラーム・チャランの妻はアポロ病院経営者のご令嬢なんですね。
さりげないというか思い切りというか、CMも入ってますね(笑)。コカコーラのCMも入っていました。
宣伝もバッチリなアポロ病院
そして本作のお笑い部門を一手に引き受けているのがこの方。顔面の表現力が豊か。顔だけで笑わせることができるってすごいですよね。
忘れちゃいけないコメディ役のブラフマーナンダム(Brahmanandam)。南インドの映画界をまたいで広範囲に活躍するコメディアン
ちょっとしか出てきませんが、ついつい顔面に注目してしまう方もいました。
ムラリ・シャルマ(Murali Sharma)。警官役で出演した作品は数知れず。顔面に存在感がありすぎなちょっと気になる俳優です
そんなわけで、本作は東京5/4(木)13:00からと5/9(火)16:00から、大阪5/12(金)11:00からです。どうぞお見逃しなく!
Comments