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執筆者の写真Masala Press

『パッドマン 5億人の女性を救った男 "Padman"』@ソニー・ピクチャーズさん試写会

バーフバリ旋風が巻き起こり、インド映画が立て続けに公開の本年。Masala Pressスタッフ一同、感無量です!


さてさて、12月7日(金)から全国ロードショーとなる『パッドマン 5億人の女性を救った男』の試写会に行ってまいりましたよ!


アンジャリこれはエア・インディアの機内エンターテイメントで観たのが最初で、(いつものことですが)泣きはらして充血した目でインド入国しなくてはならなくなった作品です。


公式サイトはこちらから。


※以下、あらすじ以上のネタバレはありません※

 

予告編はこちら

あらすじ

(公式サイトより) 「愛する妻を救いたい――。」 その想いはやがて、全女性たちの救済に繋がっていく。 インドの小さな村で新婚生活を送る主人公の男ラクシュミは、貧しくて生理用ナプキンが買えずに不衛生な布で処置をしている最愛の妻を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。研究とリサーチに日々明け暮れるラクシュミの行動は、村の人々から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に…。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリーとの出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちにナプキンだけでなく、製造機を使ってナプキンを作る仕事の機会をも与えようと奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。
 

Anjali’s View 〜みどころ〜

旅行者から見たインドの生理用品事情

女子の人生に長らくつきまとうアイツ……そう、生理というやつ。


国が変わろうが文化が変わろうが、世界の津々浦々で女子の身体には毎月毎月、同じ現象が起きている。


けれどそのお馴染みのアイツへの対応は、時代や国や地域によってさまざま。

今は薄くて吸収力のある優秀なナプキンがあたりまえの日本でも、ひと昔前は事情が違ったはず。


最近は経血コントロールや布ナプキンといった温故知新的な方法も紹介されていて、ゴミ問題の観点から使い捨てのナプキンではないほうがよいとか、いやいや布ナプキンだって大量の水を消費するじゃないかといったような議論もよく目にする。


私が最初にインドを旅した90年代後半、生理用ナプキンはすでに日本と同じような薄型のものが売られていた。


外国人旅行者の立場からは「ものすごく高価」というほどの値段ではないけれど、諸物価と比べると確かに割高ではあった。


ちょっとゴワゴワするとか内袋にくるんで丸めて捨てられるテープがついていないとか、オヤジしかいない小間物屋で、あまり売れないからかちょっと埃をかぶっているものを買わないといけないのが嫌とか、細かい点でやや不便もなくはなかった。


でも、何ヶ月にも及ぶ長旅にわざわざ日本製のものを持参しなくていいかなと思える、まあ必要にして十分な品質のものではあった。


階級社会のインド

製品が売られているということは、それを買う人がいるということ。実際、友人である都市部の中間層以上の女性たちはナプキンを普通に使っていた。


かたや同じ時代の地方都市や農村部の女性たちがどうしていたのか、残念ながら私は実際に見聞きしたことはなかった。


インドは地域や階層によってさまざまな事情がある国で、「インドでは……」とひと言で説明できる国ではない。


『パッドマン』はそんな、同じ時代に確かにインドにいたはずの私が知り得なかった女性たちの事情を教えてくれた作品である。


「月経期間中の女性はヒンドゥー寺院に立ち入ってはいけない」


旅行者としてそんな知識はあった。


また、どこか遠い田舎では月経期間中の女性は家の外で過ごすという話も知ってはいた。

ただ、地方都市とはいえ、ある程度の規模がある、この作品の舞台になっている街ですら「経血は穢れ」という常識がまだその時代にまかり通っていたということは、今回初めて知った。


薬局で市販のナプキンを買うときに、新聞紙で包んだブツをこそこそっとカウンターの下から渡そうとする店主に「おいおいチャラス・ガンジャ(吸引具と大麻のこと)かよ?」と言う台詞がある(字幕では「禁制品」となっていた)。そんな本気のヤバいブツと同等の扱いを、「たかが」ナプキンが受けているのが衝撃的だった。


アクシャイ・クマール

Akshay Kumar(ラクシュミ役) Copyright © 株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、Sony Pictures Entertainment, Inc.


本作の主人公ラクシュミを演じるアクシャイ・クマールは、90年代にはアクション俳優として『Khiladi』(闘士)というシリーズもの映画で名を馳せた人である。ハードなアクションもこなすしダンスもうまいし、2001年ごろムンバイの空港で偶然居合わせたときのスマートな紳士っぷりも素敵だった。


数々の女優との熱愛報道で映画雑誌やゴシップ誌にもよく登場しつつ、最終的には、映画界のサラブレットお嬢様的な存在だった女優(ちなみにこの妻トゥインクル・カンナーは現在は本作の原作”The Legend of Lakshmi Prasad”を執筆した作家)と結婚。私のインド映画鑑賞歴とリアルタイムで彼のキャリアも進んできた感がある。


近年、年齢を重ねてシリアスな役柄を演じることが多くなり、ボリウッド映画界では不動の地位を築いているといえる。


国を相手取って前代未聞の詐欺を働く集団を描いた『Special 26(スペシャル26)』(2013)、海軍将校の不倫殺人事件を描いた『Rustom(ルストムの裁判)』(2016)、イラク軍のクウェート侵攻によりクウェートに取り残されたインド人の史上最大規模の救出を成し遂げたエアインディアの偉業を描いた『Airlift(エアリフト〜緊急空輸〜)』(2016)など、実話を元にした硬派な作品がNetflixで鑑賞できるので、加入している方はお見逃しなく!

1999年3月公開の”International Khiladi”。主演のアクシャイ・クマールとのちに妻となったトゥインクル・カンナーのカットアウト(飛び出し)立て看板 (撮影:アンジャリ)


ふたりのヒロイン

本作にはヒロインがふたりいる。ひとりはラクシュミの妻であるガヤトリ。地方都市の中の下くらいの家庭の主婦で、夫を信じ待ち続ける健気な女性である。


ちなみに公式サイトでは「貧しさゆえにナプキンが買えない」と記述されているが、ラクシュミとガヤトリはいわゆる「今日食うにも困る貧困にあえぐ層」ではない。


裕福とはいえないものの、衣食住とも一定レベルの文化的な暮らしを営んでいる層で、インドでは比較的多いであろう、ごくごく一般的な庶民階級といえる。


演じるラーディカー・アープテーは舞台女優から映画界に入った実力派の中堅女優。


『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(2019年1月18日公開予定)で印象的なジャーナリストとして登場したナワーズッディーン・シッディーキーの病気がちな妻を演じた『Manjhi – The Mountain Man(マンジー山の男)』(2015)や、『Kabali(帝王カバーリ)』(2016)では「踊るマハラジャ」のラジニカーントの妻を演じたりと、はかなく可憐で素朴な妻が似合う女優…かと思えば、Netflixオリジナル映画『Lust Stories(慕情のアンソロジー)』(2018)では教え子に手を出し若い女に嫉妬するぶっ壊れた教師役を演じたりしている(ちなみにこの作品アンジャリ一押しです)。

Radhika Apte (ガヤトリ役) Copyright © 株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、Sony Pictures Entertainment, Inc.


一方、ラクシュミを手助けする女性パリーは、首都デリーでMBAを修めたり、ヒンドゥースターニー音楽のタブラー奏者として活躍する富裕層で、ごく当たり前にナプキンも使う都会派。演じるのは、インドセレブ界のファッションリーダーとしても名高いソーナム・カプール。


『スラムドッグ$ミリオネア』の嫌味な司会者を演じたアニル・カプールの娘として幼少時からメディアにも登場していた彼女は、サルマーン・カーン主演『Prem Ratan Dhan Payo(プレーム兄貴、お城へ行く)』(2015)やウォルト・ディズニー配給のシンデレラストーリー『Khoobsurat』(2014)、ヴァラナーシーを舞台にラジニカーントの娘婿ダヌーシュと共演した『Raanjhanaa(ラーンジャナー)』(2013)など、煌びやかな衣装や役柄がハマる女優。


そんなリアルでも華のある女優でありながら、ツイッター上で「表面上の美しさに惑わされないで。私がスクリーンに登場するまでには多くの人の手がかかっていて、虚飾の美を演出している。ありのままの自分を愛して」と素顔を見せて行きすぎた美信仰への警笛を発信したりと、単なるお姫様女優ではない言動から目が離せない。

Sonam Kapoor (パリー) Copyright © 株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、Sony Pictures Entertainment, Inc.


ヒロインの衣装に見る階級差

そんなふたりのヒロインの置かれた社会的立場の違いは、衣装によく現れている。


地方都市の庶民階級の妻ガヤトリは安価なコットンのサリーをまとい、都会の富裕層のパリーは、インド風味を取り入れた現代的な服を着ている。


劇中にも描かれているように、サリーは大人の女性が着るもので、21世紀の現代においても、多くのインド女性が普段から当たり前のように着こなす伝統服。農民の野良着としても着れば、華やかな結婚式でも正装として着て、地方によりさまざまな柄や着付けがある衣装でもある。


ガヤトリは庶民の設定なので高価なシルク素材や刺繍などの装飾を施していないシンプルなコットンサリーを着ているのだけど、これがめっぽう可愛いのである。


ブラウスとの色の合わせ方や、伝統柄のプリントなど、小憎らしいほど可憐な着こなし。北インドのごく一般的な着付けだと左肩に前から布をかけ流す着付け方をするところ、主に西インド一帯の独特の、後ろから右肩を通って前に布を流す着付けをしているのも興味深い。

一方パリー役のソーナムもさすがファッションリーダーとして名高いだけあり、どの出演作品でもいつもいつも衣装が可愛い。


本作では都会派ということで当初スニーカー着用のファッションなども検討されたものの、ある程度はインドらしさを残そうということで独自デザインの衣装が考案されたとのこと。

女子の活動的な装いとして一般的なサルワール・カミーズ(両サイドにスリットの入ったチュニックとゆったりパンツ)ではなく、独自にアレンジされたワンピース型のインド服と細身のチュリダール(レギンス)にストールという組み合わせは、どれも華美さはないものの、生地が上質だったり刺繍の小技が効いていたりと、いちいちキュンとくる装いで実に楽しい。


インドール

本作の舞台となっているのは、首都デリーから800キロほど南下した、インドの真ん中マディヤ・プラデーシュ州のインドールという街。


残念ながら私はまだ訪れたことがないが、作中に登場する河と、その河沿いのガート(階段状で河に降りることができる沐浴場)の、パーンと抜けた風景やガートへ降りる門の繊細な彫刻がひじょうに美しい。


聖地ヴァラナーシー(ベナレス)もガンジス河のガート沿いが有名な土地で、パッと見ちょっと似ているのだけど、撮り方がそうなのか実際にそうなのかわからないものの、こちらのほうがのんびりした雰囲気で、一度訪れてみたい土地になった。


ヒーローものとして

アンジャリ個人的にとても感動したのは、本作を配給しているのが『スパイダーマン:スパイダーバース』や『ヴェノム』のソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントさんという点!!


空も飛ばない、ハイテクスーツも着ない、盾も投げないし矢も射らない、だけどたくさんの人を救ったリアルヒーロー。


生理用品のお話なんて売りにくいことこの上ない作品と思うのですが、パッドマンをヒーローとして取り上げてくれたことが、ヒーロー映画とインド映画双方のいちファンとして嬉しくてなりません。ありがとうございますありがとうございます(涙)。


女性の身の下問題

さてさて、とりとめなく続いた本作にまつわる小話の締めくくりとして。


本作より数ヶ月早く公開された『Toilet: Ek Prem Katha(トイレ ある愛の物語)』(2017)という作品の紹介をしたい。


同じアクシャイ・クマール主演作で、こちらも地方都市の女性のトイレ事情についてのお話。


気の強い都会の大学出のヒロインが嫁いだ先は田舎で「家の中にトイレがあるなんて穢れ中の穢れ」と、男性はその辺で用足し、女性は早朝まだ薄暗いうちに集団で村外れの「トイレ場」で用を足さなければいけなかった!


「トイレ場」は屋外なので、日中は人の目があり用を足すことができない。おまけに「ロタ・パーティー」(「ロタ」は用足し後にお尻を洗う水を入れる容器のこと)と呼ばれるその早朝行事は、女性同士とはいえオープンエアで顔突き合わせて行うもの。


生まれたときからプライバシーのある個室での用足しがあたりまえだったヒロインには耐え難いカルチャーの違いである。


「トイレがないなら離婚!!!」と息巻くヒロインと、右往左往しながらも妻のために家にトイレを設置しようと奮闘する夫。


反発する夫の父親や村人たち……と、こちらも「穢れ」を扱った作品で、重苦しくなりすぎず軽快なタッチでシリアスな話を描くという点で秀逸な一作です。アクシャイ・クマールは「女性の身の下問題」を扱った2作に立て続けに出演したことになる。


キラキラした夢物語だけではない、現実にある生々しい問題に迫り広く世の中に訴えるという、そんな作品もある昨今のインド映画界。


ちなみにヒロインを演じたBhumi Pednekarは、前述のNetflixオリジナル映画『Lust Stories(慕情のアンソロジー)』(2018)にも出演、グッとくる演技を見せてくれています。


2018年12月現在、英語字幕のDVD以外で本作を日本で鑑賞できる媒体がないのだけど、もし機会があればぜひご覧いただきたい作品です。


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